滝谷便りno.27

(この便りは99年8月19日に書いたものですが、ず〜と未完のままでした。ようやく完成させましたのでUPしました。)

  2003.8.30

月兎庵・庵主 中矢澄子

「暑さも吹っ飛ぶ恐〜いお話」

今年の夏は、猛暑。酷暑で皆さんバテバテではないかと思い、今日はちょっと涼んで頂こうと、春先に起こった恐〜いお話をいたします。でも、ちょっと待ってください。この話を聞いたからと言って月兎庵に行くのを止めようなど思わないで下さいね。庵主の私は皆さんのお越しを楽しみにしているのですから。

それは春。5月も終わろうとしている頃でした。先住者から家を引き継ぎ、早く月兎庵としての佇まいを整えたいと思っていた私は、時間を見つけては足げく滝谷に通っておりました。しかし、なんたって5月は庭造りでも一番忙しい季節。その上、畳が50数枚、障子が20枚弱あり、ちょとやそっとの時間ではお客様をお迎えできる様な状態にはなりません。そこで、奥の部屋の畳を天日に干し、敷き直しができたこともあり、いよいよ泊りがけで作業をしようと勇んで出掛けました。

昼間畑で春の手入れをしておりましたら、一羽のカラスが飛んできました。滝谷ガーデン(私の花畑)のクルミの木のてっぺんでガーガー鳴いています。少々うるさくもありましたが、気にせずにいつもの調子で作業をしていました。そのうち小腹が空いてきたので、林の中にあるテーブルに置いていたハンバーガーを食べに行こうと、ふっと後ろを振り向いた、その時。なんと、先ほどのカラスがハンバーガーが入っている紙袋をくわえて飛び立とうとしているではありませんか。こともあろうに私の大事な大事な昼食を! もちろん追いかけました。「かえせー、それは私の大事なお昼なんだゾー」って。しかし、カラスは私の心理を読み取っているがごとく、ちょっと飛んではこちらの様子を伺い、またちょっと飛んでは様子を伺いながら意地悪そーに私を焦らして、隣の杉林に消えていきました。今日は昼抜きで頑張ろうと気持ちを切り替え、クルミ林の隣を耕し始めていたら、先程カラスに持って行かれた紙袋が転がっているではありませんか。忌々しいカラスめ!! わざわざ私の側に来て「今日のお昼はGETダー。間抜けなおばさんアカンベー」と言われているようで、またまた怒りが込み上げて来ました。

その時の様子を通りがかった阿部ばっちゃんに話したら、「カラスはとても頭が良い上に予知能力もあるんだよ」と言う話をし始めました。阿部ばっちゃんの話によると、2日前に村の上空を数十羽のカラスがガーガーうるさく飛びまわっていたそうです。昔から滝谷では、人が死ぬ前にはたくさんのカラスがうるさく鳴き騒いで知らせると言われているそうです。案の定、昨日、以前滝谷に住んでいた人が亡くなって、今晩お通夜だと話をしてくれました。めっぽうこの手の話に弱い私。聞きたくないことを聞いてしまいました。その上、ピーンと来たんです。恐る恐る阿部ばっちゃんに訪ねました。「もしかして・・・、その人、私が買った先々代の家の持ち主?」 すると阿部ばっちゃん、事も無げに「うん、すんダ」と言うではありませんか。万にひとつ、ノーと言ってくれるのを期待した私はガーンと打ちのめされ、始めての泊りでハリキッテいた気持ちがプシューと萎み、泊まろうか、どうしようかと迷い始めました。だって魂は生前を偲んで家に帰って来るとよく聞くでしょ。それに、今日はお通夜の晩。

 

畑仕事が一段落し月兎庵に帰って来てからも、泊まろうか帰ろうかと迷っていたところに、左隣の栗原さんのばっちゃんがやって来たので、私の悩みを打ち明けました。

すると、ばっちゃんは笑い転げながら「そんな人じゃねー。いい人だった。化けて出てあんたを驚かせる様な人じゃねー」と言いながら、「もし、恐くて一人で眠れないようであれば泊りにおいで」と言葉を残して帰って行きました。

 

本当に、亡き人に対して失礼なことを考えてしまったと反省しながら、一度も顔を合わせたことのない人に「ご冥福を」と心で祈り、気を新に台所に向かいました。するとその時、一瞬当たりが暗くなったのです。フムッ??? 心が少しざわつきました。「もしかして・・・」と不安げに当たりの様子をよーく見ると、台所の隣にあるお風呂場の電球の玉が切れていました。長い間取り替えていなかったのでしょう。原因がはっきりしたら気持ちが元に戻って、野菜を刻み始めたとたん。こんどは、天井からパタン・・・パタン・・・と足音に似た音が聞こえて来るではありませんか。一瞬青ざめ、音のする囲炉裏のある部屋を覗くと、風も無いのに自在鍵がゆ〜ら、ゆ〜らと揺れています。ザワー・・・。「出た〜」一目散に栗原ばっちゃんの所に駆け込みました。「ネーネーネー。聞いて聞いて・・・出たのよ出たの!!」「もーダメ。私。一人で泊まれない!お願いだから泊りに来って!!」すがるような私を見てカンラカラカラと大笑いする栗原ばっちゃん。笑ってる場合じゃないでしょうに! と心の中で思いながらも目はすがりっぱなし。それを見た栗原ばっちゃんは、「では、阿部ばっちゃんも誘って行くからね。」と。

しばらくして二人で月兎庵にやって来てくれました。二人とも既に連れ合いを亡くして一人暮らしをしていますから、二人はまるで修学旅行気分になったみたいに、囲炉裏を囲んで話しが弾んでいます。もう、恐くありません。たとえ鬼であろうがお化けだろうが、来ても逃げ出してしまいそうなくらいに、村中に響き渡る程大笑いしている彼女達の姿を見て、安堵しながら、その脇で私は障子張りに勤しんでいました。そうこうしていると、夜も更け辺りの家々の灯かりも消え、ばっちゃん達の目がショボショボしてきました。そろそろ寝る仕度を整えてあげようと、お布団を敷きに立ち上がった、その時。今度は玄関の方で、トントンと戸を叩く音が聞こえて来ました。忘れかけていた恐怖が、また蘇ってきました。

さっきまではしゃいでいたばっちゃん達も一瞬静かになって、三人でソーと耳を澄ませると、また、トントン…と戸を叩く音が聞こえて来ました。こんな夜中に人が来るはずもないのに…。恐る恐る玄関の方へ行くと、玄関のガラス戸越しにボ〜と白い影が佇んでいます。恐怖のあまり血の気が退きそうになった、その時。「こんばんは〜」素っ頓狂な声をして入ってきたのは、また例のトロンコです。夜の会合が終わったのでふらりと来たそうです。来るなら来ると言ってくれれば、こんなに驚かなくてすんだのに、人騒がせな人です。今日はとびっきり驚かされました。

 その数日後。トロンコと部屋掃除を終えて一休みしていましたら、またまたパッタ〜ン、パッタ〜ンと天井から例の音が聞こえて来ました。「あぁ〜、やっぱり」  一瞬恐怖に襲われましたが、今度は二人。直ぐに気を取り戻して耳を澄ませると、どうも何かの足音に似ています。側にあったホウキの枝で思いっきり天井を突いてみました。するとバタバタバタと慌てた足音。後日村のじっちゃんに聞いたら、多分それはムササビだろうとのこと。長い間空家にしていると、キツツキが壁に穴を開けたところから入って来て住み着くそうです。と言うことは、月兎庵の庵主は私ではなくて、このムササビ。私は下女に格下げになってしまいました。

 どうでしたか?少しは暑さが和らいだでしょうか?お元気で。

前のページTop] 次のページ]

滝谷便り