滝谷便りno.26

 

no.26は恒文社発売の「新潟発」田舎暮らし滝谷からに掲載されたものです。)

  2003.07.1

月兎庵・庵主 中矢澄子

「熱に浮かされて」

    友人の写真家・清水重蔵氏から声を掛けられて、初めて{海自然写真学校Q加したのが4年前。日本海自然写真学校は、風景写真家の第一人者・竹内敏信氏が学長を勤め、その他の講師陣もカメラ雑誌などで大活躍の面々。ほぼ年一回、一流写真家が勢揃いし、全国から毎回200名ほどの参加者が2泊3日の合宿スタイルの、まさに写真漬けの学校である。

私は、初回にして大胆にも中級者クラスに身を投じた。会期は夏。朝3時には起き、日の出前には撮影ポイントに立っている。あたりはまだ薄暗い。「こんなに暗いのに、いったい何が撮れるの?」と突っ立ている私をよそ目に、参加者はシャッターを切り始めた。いままで一度も写真教室など通ったこともなく、カメラも初心者向き、レンズも極当たり前のもの一本きり、露出もシャッタースピードもカメラ任せの自己流で撮っていた私は、皆の熱気と機材のすごさに圧倒された。出来栄えは言うまでもなく、赤子と大人ほどの差がある作品であった。滝谷にアトリエを構えて一年目の夏、 これが私の写真元年になった。

その後、懐具合と相談しながら接写レンズにズームレンズと買い揃えて行った。被写体は言うまでもなく滝谷。 春を告げる蕗のとう。雪解け水のせせらぎで凛と咲く水芭蕉。新緑の里山に華やかさを添える山桜。闇夜に輝く蛍たち。夏の日差しと競演しているカンゾウの花。野菜畑を無心に飛び回っている虫。やんちゃな猿たち。たわわに実った稲穂。林でひっそり生えている茸。夕日を受けて桜色に輝く雪原や山々。軒先にずっしりとぶら下がっている氷柱。・・・心に写る風景が、滝谷には山ほどある。その全てを写真として残してみたい。特に飾りっ気のない純朴なじっちゃん、ばっちゃんの笑顔と長年培ってきた美しい佇まいや滝谷に漂う緑色の空気感。そして、満天の夜空に抱かれる集落。しかし、どれをとっても難問だらけで、ばっちゃん達は、皺くちゃ顔を写されてはたまらんと、カメラを向けると逃げてしまうし、緑の空気感って?どう表現していいやら分からないし、星空撮影の知識は無いし・・・。でも、強く思えば叶うもので、ばっちゃん達もこの頃では少女のようにハニカミながらも写真に納まってくれるようになった。そして星空撮影の方はと言えば、写真仲間の花野氏が先生役を買って出てくださった。

さて、待ちに待った星空撮影の当日。3月の滝谷は、まだ辺り一面1m以上の積雪。星が輝く夜は、当然冷え込みも激しく、ホカロンをいくつ体に貼り付けても足元から深々と冷えてきた。星の軌跡が円を描く撮影は、数時間掛けなければ撮れないらしい。根性なしの私は、そんなに待ってはいられないと、弓形の軌跡で手を打つことにして待つこと数十分。あたりはシーンと静まり返り、ピーンと張り詰めた空気の中・・・突然ドサッと大きな物音。ドキッ・・・。「な〜んだ、枝に積もった雪が落ちただけかぁ〜。」 夜間の物音は日中と違い反響が大きい。結局この日は途中から雲が出てしまい一枚で終了。星空撮影は相当な辛抱強さと肝っ玉が据わっていないと出来ないことを学習。 イヤッ、忍耐と努力と度胸だけではない・・・そう、情熱だ! 何よりもかなりの高熱に浮かされていなくてはできないことだ。 そう言えば、今年1月に行なわれた日本海自然写真学校の早朝撮影でも、受講生たちは吹雪の中、鼻水垂らしながら今か今かと千載一隅の日の出のチャンスを待っていた。 あの時も、「この人達、お病気かしら?」と、貸切りバスの中で思っていたなぁ〜。

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