滝谷便りno.21

no.21は恒文社発売の「新潟発」田舎暮らし滝谷からに掲載されたものです。)

  2002.4.30

月兎庵・庵主 中矢澄子

「俄かフォトグラファー」

冬が長い分、わーい春だ〜。と思わず叫びたくなる程の季節が滝谷にも訪れました。新潟市内では梅がとっくに散り、桜もほとんど散って八重桜が満開だと言うのに、滝谷に向かう途中の集落は桜吹雪の真ただ中。その桜吹雪の中を残雪の飯豊連峰の土手腹に突き刺さるように思いっきりアクセルを踏んで車を走らせる。この時期は、私が一番大好きな季節。雪国で生活していて良かった!と思う瞬間です。

滝谷の一つ手前の赤谷は桜が満開なのに、車で5分しか違わない滝谷は桜が七部咲き、梅が九部咲き、田んぼの畦や野原には一面キクザキイチゲに野すみれが可憐な姿を見せています。家々の庭や野原には、水仙も咲き始めました。もちろん月兎庵も花盛りです。前庭には椿や野すみれが咲き、水仙の芽が屋敷中に、にょきにょき顔を覗かせています。そして、ジーと目を凝らすとオダマキが次の準備をしているではありませんか。これだけでもヤッホーとかワーイと声を上げそうになるのに、裏庭の小川の辺には水芭蕉が咲いていました。桃源郷と言う言葉は滝谷の為にあるんだ!な〜んて勝手に思い込んでしまうほどです。 そうそう、入居時に植えた月兎庵のシンボルツリーの大島桜も生長し、可憐な花を咲かせています。自称フォトグラファーの私、早速カメラをぶら下げて散策に出かけました。

野山を駆け巡り、小川を跨いではオトット。地べたに這いつくばってはシャツを濡らし、やれ望遠ダ、やれ接写ダと、シャッターを切りまくりました。早春の花は可憐なものが多く、思いっきり近づいて花びらの一遍一遍レンズを通して覗き込むと、そこは小宇宙。まるで自分が小人か昆虫にでもなった気分です。ぽかぽかとした日差しの中で時間が経つのを忘れて宇宙遊泳を楽しんでいたら、ファインダーの中に若草色の物体が・・・。そうなんです、見るからに美味しそうな蕗の塔。

  あるはあるは田んぼの縁に、小川の縁に。とたんにさっきまでのフォトグラファー気分は何処へやら。急いで籠を取りに帰り、今度はせっせと山菜取り。ご多分に漏れず滝谷も山菜の宝庫です。これからの時期、ワラビにゼンマイ。タラノメにウド。ヌルイにミズナ。コゴミにミツバ。ツクシにセリ。ノアザミにハワサビ。名前を上げたら切りが無いほどです。取り分け春先の新芽は何でも天婦羅にすれば食べられるとかで好奇心旺盛な私は、手当たり次第にチャレンジ。栽培ものの軟な山菜とは一味も二味も違い、野生育ちは一口食べただけで濃厚な香りが五臓六腑に染渡る。村のじっちゃんやばっちゃんも畑仕事の合間を見つけては、野に山に山菜採りに出かけて行きます。これも店が一軒もない山暮らしの大切な仕事。様々な山菜を採っては保存食にし、これからの一年暮らしを支えて行かなければならないからです。でも、冬の間ひっそりとしていた滝谷も、この時期から次々と街人が山菜採りに入って来て騒がしくなります。無残に抜き取られた山菜の跡や、道端に投げ捨てられた空き缶を見てムッとするのは、私も山人になってきた証拠かしら?と思ったとたん、茂みから突然ザワザワと音がした。「さては山菜ドロボー」と思いきや、ぽかぽか陽気に誘われて山から下りて来た猿たちでした。

前のページ[Top] [次のページ

[滝谷便り]