滝谷便り no.3

 99.1.26.

月兎庵 庵主 中矢 澄子

 

正義の味方・貧乏人の味方じっちゃんマン

滝谷のじっちゃん、ばっちゃんは平家の血を引く為か、上品で物腰柔らかな人達。その上、よ〜くよく観察するとなかなかの個性派。その一人が、この度月兎庵を世話してくれた阿部じっちゃんである。阿部じっちゃんは通称、伍長さん。この滝谷は、30軒程の集落であるが、平家落人6人集から出来たのが始まりで、その為に「阿部」姓を名乗っている家が何軒もあり、それぞれ屋号や通称で呼び合っている。

阿部じっちゃんは、若い頃は滝谷近隣に山を持ち、材木商を営んでいた。その頃多くの人をつかっていただけあって今でも眼光鋭く、耳が遠いことを除けば足腰しっかりしていて、背筋もピーンと伸び、とても80歳には見えない。毎日オートバイに乗り、村の警備にあったている。警備といっても空き巣、ドロボーのたぐいではなく、猿の警備なのである。ここ滝谷は磐梯朝日国立公園の入り口近くにあたり、猿、熊、鹿が住んでいて、猿には頻繁にお目にかかる(熊にはまだ会ったことはないが)。この猿達は、作物が実った頃になると何処からともなくやって来て、丹精込めて作ったものを誰の断りもなく食べて行く。現に私の農園にも、やって来た形跡あり。ある日、畑を見たらニンジンがかじられて捨てられていた。なんとも失礼な話である。ニンジン丸ごと食べたのなら、まだ許しもするが、一口食べてポイされたのだから、私のプライドはズッタズッタ。この憎っくき猿を追い払うために、阿部じっちゃんは月光仮面のように今日もバイクにまたがり、疾風のように現れ、疾風のように去って行く。まさしく、正義の味方阿部じっちゃん!!ただし私の農園を守るつもりではなく、あちこちに点在している自分の畑を見回りしていて、たまたま、その途中に私の農園があると言うだけのことだが…。

この阿部じっちゃん、始めは私の顔を見て、「何処のどいつか知らないが、わしに挨拶も来んと、勝手に村に入って来て何やら怪しいヤツじゃわい。」と言わんがごとくに非常に無愛想であった。が、しかし、こちらには武器がある。そうニコニコ笑顔とカメラなのである。ある日、阿部じっちゃんが農園の前を、はしごを担いで通りかかった。その時、「女は愛敬・女子は度胸」と言った父の言葉を思い出し、すかさずニコニコビームを発射〜。すると、今まで眼光鋭かった阿部じっちゃんの目が博多のにわかせんべいの様になったではないか。次の瞬間「ガシャ」とシャーターを切った。後はご想像通り、写真を大伸ばしにしてプレゼント。それ以来私と源じっちゃんは大の仲良しだ。

その阿部じっちゃんに、ある日、家探しの話を持ち掛けた。始めは、阿部じっちゃんの家の居候でもと思ったが、このじっちゃん80歳にしては若々しく、時折危ない香りを漂わす。夜這いでもされたらヤバイ!!な〜んて、しなくてもいい心配をした訳ではないが、下戸の悲しさ故に、毎晩晩酌に突き合わさせられでもしたらと心配になり、居候する考えを止めて家探しを頼んだ。

年の暮れも押し迫った頃、阿部じっちゃんから突然電話が来た。「もしもし、ワシ滝谷の阿部ですがの〜もし、家が一軒でたんじゃがのもし〜、あんた、前に家買いとうと言ってなさいがしたもし、買いなさるかもし。」「エッ??」。「もしもし」ばかりが聞こえてきて、何言っているんだかよく聞き取れない。よくよく耳を澄まして聞くと、何やら売り家が出たと言った用件である。こんどは「えっ!!」と耳を疑った。

滝谷はもともと50軒程の集落であったが、今では常時住んでいる家は30軒余り。あとは厳しい冬を逃れ、新発田の街(滝谷から30分、新潟市から30分のところにある城下町。)に移り住む人が年々増えてはいるが、冬を除けば誠に住みやすい所なので、新発田に移り住んでも、滝谷の家は手放さず、週末ハウスに使っている人がほとんどである。その為めったには、売り家が出てこない。その売り家が出たと聞いただけで、さっそく飛んで行った。なんと、それは築130年、堂々とした農家だった。中に入ってみると、あるある…憧れの囲炉裏が…。130年も経っているのに台所の床と外壁の一部が傷んでいる位で後はしっかりしている。その上、130坪の土地付き。思わず合格!!の判子を押し、後は値段。相手の希望価格は***万円とのこと。通帳をそ〜と覗いて見る。あった!!ぎりぎりセーフ。でも、ちょっと待てよ…。「これ全部使ってしまうと修理費だ、備品だ、登記料だと、これからも出費がかさむ…それに農園にもまだまだかかる…」と。そこで、阿部じっちゃんに***万円で交渉してもらうことを頼んだ。すると、どうだろう。驚いたことに、阿部じっちゃん、またまた疾風の技を見せ、半日もしないうちに電話一本で***万円に話をつけてくれたのである。それも、しっかり自分の取り分含めて。さすが貧乏人の味方阿部じっちゃん!!

思ってもみなかった神様からのビッグプレゼントはクリスマス・イブの夜であった。めでたし、めでたし。

その後、この家に名前を付けることにした。入居するのは、いずれにしても雪が解けてからになるので、兎年の春。そして、今アメリカに住んでいる娘が兎年生まれなので、兎の文字を使いたいと考えた。玉兎は月の異称である、と辞書に書かれていた。文字を見ているとイメージは良いが、言葉の響きがギョクトとは、いささか硬い。兎は月の精らしい。玉がダメなら雪かな〜などと、迷っていたら、「あんた!!一文無しになったんでしょ。それだったら、いっそうのこと月兎庵にしなさい。これから色々とGETしなくちゃいけないんだから。」と友人からのありがたいアドバイスで月兎庵に決定。

皆さん、よろしくお願いします。

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