滝谷便りno.23

 

no.23は恒文社発売の「新潟発」田舎暮らし滝谷からに掲載されたものです。)

  2002.10.1

月兎庵・庵主 中矢澄子

「自給率UPに挑戦」

 

「あんた、人の価値を何で決めているんだい」と

ボランティアで杉林の間伐をしているグループの一人に宴席で絡むように聞かれた。とっさの質問にたじろぐ私を横目に見て「人の価値は学歴や肩書きじゃねーやー。自給率よ!自給率!!」

 

 その言葉がそれ以来私の脳裏から離れなくなった。考えて見れば滝谷に入った切っ掛けは、花の試験栽培を目的に花畑を造るためであった。しかし、どんどん滝谷に惚れていったのは、風景や村人、美味しい空気や水、動物に惹かれただけではない。荒れていた広い土地を小さな耕運機一台と草刈機を買って、コツコツひとりで開墾した。耕した土地は、黒々とし見るからに美味しそうな土が顔を覗かせた。開墾した土地に、先ず、ジャガイモを植えた。収穫期が来て友人たちと掘って、その場で料理して食べた。思わず唸るほど美味かった。また、畳がブカブカし台所の床が抜けたオンボロ家を買った時も、自分でできることは自分で、と思い50枚はある畳を剥ぎ天日で干した。長い間閉ざされていた家の中で湿気った畳が、お日様に当たって気持ちよさそうに伸びをした。自分の手を動かしたら、みるみる様子が変わって行った。汗をかいた分だけ形になって行った。いつしか虜になっていた。「あれっ?これって自給率?」

 

 さぁー、それからの私は大変!フックに、棚に、皿に、ホークに、ナイフ。風通し窓に、椅子の張替え、網戸貼り。衝立づくりに、冬囲いにと。快適な生活空間を創り出す為の自給率UPに挑戦。素材も廃材や蔓や間伐材、竹など身近に手に入るものを見立てて活用する。始めはおっかなビックリで使っていた道具も使いこなせるようになった。今ではチェーンソーや電動カンナ、ユンボまでも欲しくってたまらない。自給率をUPさせる毎にスパ(露天風呂)も作りたい!星の観察台も、ツリーハウスも・・・と、膨らんでハチ切れそうな夢を友人達に話す。もちろん友人達は引け腰だが、上半身はしっかり身を乗り出している。

もちろん自給率UPは食べ物にも及ぶ。街で生活をしていた時は、スーパーで買ってきた野菜を冷蔵庫で戦死させていたこと度々であった。しかし、畑づくりを始めてからは、野菜の皮も不用意に捨てたりしない。山菜のことも勉強し、新しいメニューができないものかと頭を捻る。蕗の佃煮「日本一うまいホラ蕗」。なんばんとシソで作る「山姥の手前味噌」。思いっきり辛いなんばんと柚子の香りの「山賊の一味」。小梅の梅干し「ピンコロ梅〜え」などは自給率の成果。

 

そうそう、あかり作家と新しい肩書きが加わったのも、もとはと言えば月兎庵の照明を作ったのが切っ掛けであった。この秋と来年一月に新潟と東京で個展を開くことになっているが、あかり作家の肩書きが加わったお陰で山暮らしの経済活動の基盤もできた。この歳にして人生どう転ぶか分からない可能性を面白がり、リストラだの定年だのと心配もしないで良い汗と良い時間を楽しめるのも自給率のお陰かも。ウソだと思う節は、どうぞお試しあれ。

 

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